2006年1月2日月曜日

ノストラダムス預言詩八巻十六番の訳と解釈

Au lieu que HIERON fait la nef fabriques.
Si grand deluge sera & si subite,
Qu'on n'aura lieu ne terre s'attaquer,
L'onde monter Fesulan Olympique.

イエロンが船を造らせる場所で
突然の大洪水が起きるだろう
あまりの凄まじさに攻撃する場所も土地も失ってしまう
水はオリンポス山 フィエーゾレにまで達する
(山根和郎訳)

のように普通、Olympiqueという言葉は「オリンポスの山々」あるいは「オリンピアの地」としか訳せない。なにせノストラダムスの十六世紀の時代オンピック(という競技大会は)なかったのだから。

想起されるは古代オリンピックでありそれが行なわれた場所くらいだろう。普通、デカラシップで音韻の束縛がなければこの場所に当てはまるのはフランス語のOlympieかolympienのどちらか。あえてギリシャ風の発音しか出来ないOlympiqueという言葉を当てはめたところがノストラダムスの全詩に通じる一種のスノップであるのだが、まあこんなことガチガチの肯定派に言って見たところで無駄だろうけれど・・・。
四行目自体、「波が Fesulan Olympique に登る」のだから(デカラシップの為という言い訳は可能だが)「オリンピックの年に」と訳するのはおかしなことなのである。あるとすれば、出来上がった「日本語訳」にあとで手を加えた場合くらいだろう。

さて原詩をもう一度詳しくみてみよう。

Au lieu que HIERON fait la nef fabriques.
Si grand deluge sera & si subite,
Qu'on n'aura lieu ne terre s'attaquer,
L'onde monter Fesulan Olympique.

HIERONは古代ギリシャ時代のシラクサ(シラキュース 現在はイタリアのシシリア島あたり)の王。普通日本ではヒエロンと読まれる。シラキュースは人口は少なく、その大帆船すべてに自国の民すべてを乗せることさえできるのではないかとさえいわれるほど大きな船を作る技術と造船所を持っていた。そして、その大帆船軍団でローマ帝国やカルタゴを相手に渡り合いつかの間の繁栄時代があった。そして、ヒエロン王が歴史的に名を残しているのはアルキメデスのテコの原理と浮力の法則の発見に登場するからである。

Fesulanは意味不明の、おそらくはノストラダムスによる造語。インターネットでこの言葉を検索してもこの8-16番関連のページしかヒットしないくらい。(笑)

Feulan=Fue+lance:火の筒先ではないかという説がある。
それだと、ノアの箱舟と合わせて、オリンポス山の頂上にいる神々の怒りと解釈出来て、確かに解釈しやすいし、座りもいい。

私は、単純に二行目との対比で「grand deluge(たぶんノアの洪水を指すと思われる)が突然やってきたならば(si)~」に対する「~であろう(予測未来)」のために用意された言葉で、波はオリンポスの山のどの程度に、(どの程度まで来るのか)を形容するための言葉だと思う。したがって「頂上」というのはは魅力的な解釈ではあるのだが・・・

一行目と三行目からは大帆船を作ることと、洪水の規模の大きさからやはり「ノアの洪水」を暗喩した表現だと取る。

ヒエロン王の大帆船工場にも
大洪水は起こるのである、突然に
その波の襲来は土地をすべて失わせ
オリンポス山の神々の怒りを静める
(拙訳)

解釈としては

かつてシラキュースの王として君臨したヒエロス王の作らせた大帆船でさえ
大洪水が突然押し寄せればすべての人が船に乗り込む場所もなく
船はオリンポス山の神々の怒りが解けるのを待つしかないのである。

つまり、神の怒り(を具現化した津波)の前に人間がいかに無力であるかということを表現した詩ではないかと思うのだが。(了)

0601021641