2006年2月8日水曜日

ピート・シンフィールド 「stillusion (Still+Illusion」

sideA
1:The Song Of The Sea Goat
2:Under The Sky
3:Will It Be You
4:Wholefood Boogie
5:Still
sideB
1:Envelopes Of Yesterday
2:The Piper
3:A House Of Hopes And Dreams
4:The Night People





(上がオリジナル『Still』下が再発されたCD『stillusion』のジャケット)






レコード・CDの整理をしていて困るのが同じものが何枚も出て来たときだ。ひどいときなど、エマーソン・レイク&パーマーの「展覧会の絵」がアナログ盤が3枚、CDが3枚も出て来て処分に困る以前に自分の記憶力のなさに絶望的になったことがある。

逆に持っていたはずなのに探したら出てこないというのもある。大概の場合、ひとにやっちゃってそのままになっているとか、なんとなく売っぱらっていたのにそのことを忘れていたりしていた場合だ。Windows95以降は手持ちのレコード・CDをリスト化したのでそういう間違いはなくなったが。

ただ困るのが、昔昔の古いレコードがCD化されたとき、ボーナストラックがあったり、逆に削られていたりで収録曲が違っている場合どうするかで、今のところこれといった解決策もないままずっと二重持ちしていたりするものが何枚(十何枚?)もある。



自分がピート・シンフィールドの唯一のソロアルバム「still」を初めて買ったのは高校3年のときの7月9日。それは今でもはっきり覚えている。何故かというと自分の誕生日であるからだ。平日の午後、夕方近くに近所のサンリツというレコード屋でこれを買って家に戻る途中、同級生だった近所の女の子が自宅近くで立って待っていた。手紙を手渡された。「誕生日のプレゼントかなー」と思って礼を言うと、彼女は何か深刻そうな面持ちのままで脱兎のごとく走り去ってしまった。

家についてからその手紙(封筒)を開けると、それはその同級生からのものではなくて、当時交際していた女の子からのもので「これからことを考えてもう会わないことにしましょう」というお別れの手紙だった。

今でもこれを聞くと当時の情けない気持ちが蘇ることがある。

はじめてこのアルバムを聴いたというか聞かされたのはもっと前だった。強制的に聴かされたといっていい。英語の歌詞が珍聞漢文だったこともあるが、日本語の訳もまたわけのわからないもので「で何がすごいの?」と聴かせてくれた相手に尋ねたのだったか。それとも単にそう思っただけで実際には言わなかったのか、そのあたりの記憶もあいまいだ。

幻想的なカバーイラストと柔らかなピンク色が印象的なとても上品なジャケットで、叙情的な歌詞と完成度の高い作品が並び、ただピート・シンフィールドのボーカルの弱さ(はっきり言って下手)を除けば良いアルバムではないかと思う。全編最初からグレック・レイクやリザードみたいにジョン・アンダーソン、あるいは当時付き合いのあったブライアン・フェリー、PFMのフラビオ・プレモリあたりに歌わせればよかったはずなのだが。

それでも、いまこのCDを聴いても、このシンフィールド自身によるボーカルで歌われる歌詞を耳にしただけで、当時心に浮かんだものがよみがえるのだから音楽(曲+詞)のチカラは侮れないだろう。

特にタイトルチューンの「Still」のもつ言葉のマジック(技法的には単純なものだが)
高校あたりの教科書に採用しても良いんじゃないのかと思うくらい普遍的で深い。



Still...(Pete Sinfield)

Still I wonder how it is to be a stream,
From a dark well constant flowing,
Winding seawards over ancient mossy wheels
Yet feel no need of knowing?
Still I wonder how it is to be a tree,
Circled servant to the seasons,
Only drink on sky and rake the winter wind
And need no seal of reasons?
Still I wonder why I wonder why I'm here
All my words just the shaft of my flail
As I race o'er this beautiful sphere
Like a dog who his chasing his . . .
Tailors and tinkers, princes and Incas,
Sailors and sinkers, before me and like me . . .
Still I wonder how it is to be a bird,
Singing each dawns sweet effusions;
Flying far away when all the world has stirred
Yet seek no vain conclusions . . . . . .
Still I wonder if I passed some time ago
As a bird, or a stream, or a tree?
To mount up high you first must sink down low
Like the changeable tides of the
Caesars and Pharoahs, prophets and heroes,
Poets and hobos, before me and after me all the
Painters and dancers, mountainside chancers,
Merchants and gamblers, bankers and ramblers,
Winners and losers, angels and boozers,
Beatles and Bolans, raindrops and oceans,
Kings, pawns and deacons, fainthearts and beacons,
Caesars and Pharoahs . . . . . .

後半でらでらと並べ立てられる、対比としてのふたつのものの中に、いきなり「ビートルズとボラン(マーク・ボラン)」が出てきたりして、これはなんかに似ているなと前々から思っていたが、ジョン・レノンが1970年に発表したアルバムの収録曲「GOD」の中でジョンレノンが「信じない」として列挙した、ありとあらゆる心象事象のなかに突然「ジマーマン(ボブ・デュラン)が出てくるのとよく似ている。

ジョン・レノンのこの曲もまた私たちがノーとしなければならないもののなかに「GOD(もちろん神のことだよ)とともにオカルティズム(心霊信仰という意味での)を挙げている。

なるほどなるほど。そうしてみると、当時ロックの世界では当たり前のように臨在していた「神秘主義」をこうして「ノー」であるとはっきり否定する作業というのはむしろ必要なことだったのかもしれない。



今から12~3年前のことだが、目黒本町のビデオ店の店長だったころ、アルバイトのMという男が「ピート・シンフィールドのスティルがCDになったんで買わないか?」といって来た。いや、正確な言い方をすれば「自分も買うのだが一緒に同じ物を買ってくれないか?」と頼まれたのだ。今までいろんな頼まれ事をされてきたが「一緒に同じCDを買ってくれ」と頼まれたのはこれが最初で最後だ。

というわけで買ったCDのタイトルを見ると「stillusion」になっていた。しかも、マンティコアのマークはついていたがオーストリアのvoiceprintという聞いたこともないレーベル。曲目と曲順は

1:Can You Forgive A Fool
2:The Night People
3:Will It Be You
4:Hanging Fire
5:A House Of Hopes And Dreams
6:Wholefood Boogie
7:The Piper
8:Under The Sky
9:Envelopes Of Yesterday
10:The Song Of The Sea Goat
11:Still

つまり単純に言えば1と4の2曲が増え、オリジナルに入っていた9曲の順番をまったく組替えたということになる。けっ、なんちゅー面倒なことしてくれたんだか。したがって今だに(Still)私はこのCDとオリジナルのアルバムが同じ物とは思えずにいる。聞けば数年前やはりオリジナルのStillがそのままの曲順と曲数のまま復刻再発されたという。私がどちらを薦めるかといえばやはりオリジナルの方である。

06.02.08.11:37