2006年9月9日土曜日

思考停止の罠に陥らないためにも

日常生活の中には、ある種の罠のような物がたくさん仕組まれているなと感じることがある。

こんな書き出しだと、「なんだ陰謀論みたいなことを言い出すのか」と思う人がいるのかもしれないが。

そうではない。

たとえば、これはあくまでも例として出すのだが、エスカレーターの乗り方で片側詰めの問題というのがある。なんだか知らないうちに「エスカレーターは片側の寄って乗り脇を空けて乗りましょう」というのが「正しいマナー」ということになった。

誰が言い出してそうなったのかは知らない。自分の記憶でもはっきりしない。たぶん、1990年代のアタマにはなんとなくそうしなくちゃいけないという雰囲気をもってエスカレーターを利用していたという記憶はすっすらと残っている。

「東京は左寄せだが名古屋より西はなぜかどこも右寄せである。」

数年前、帰仙したときに仙石線の長いエスカレーターを初めて使ったとき、何故か右寄せだったので激しい違和感を感じたのを覚えている。

しかし今ではそれも何故かいつのまにか綺麗に左寄せということで統一されているようだ。

だが、それはそれで首を捻りたくなるような不思議な出来事である。

何故「左」なのかという明解な答えはないからだ。

いつだったか、等々力あたりの深夜のファミレスで何人かと話をしていたときに、その話題になって「右か左どちらが正しいのか」というちよっとした激論になってしまったことがあった。

誰かが「東京は間違っている」とか言い出したからである。

きっと関西出身の人間なのだろう。「右に寄らないと危ないではないか」というようなことを熱っぽく語り始めたのだ。

さらには、武家の作法を持ち出してそれを肯定するやつ、道交法を持ち出して来て、パッシングは右からが基本だとか反論する奴が続出した。

その中で、右か左かの意見を求められて、自分は「どっちでもいい」と答えた。

「そんなこと自分の前と後ろを見て決めればいいことだ」

そう言うと、なんだか自分のその意見というものが場の雰囲気をものすごく悪くしたようだったが。

知るか。今は江戸時代でもないし、人間は二車線道路を走る車ではない。

「関東が」とか「関西が」とか言ってみても所詮付け焼刃のなんちゃってマナーでしかない。

どうせならお雑煮の餅の形、丸か四角についての議論の方が有意義なはずである。それこそ長い文化と伝統同士のぶつかり合いの議論になる。嘘だと思うのなら一度やってみればいい。

よく、「ロンドンでは・・・」と持ち出して右寄りが正しいとか言い出す奴がいるが、あれはまったくの嘘出鱈目かただの伝聞の聞き間違えである。

ロンドン生まれの人間を何人か知っているが、全員が「ロンドンは右側」を守っていないといっていた。

「チューブ・テイルズ」とかのイギリス映画あたりを見ればすぐにわかることだが、ロンドンの地下鉄のエスカレーターを利用している人間の使い方は全員バラバラでマナーもへったくれもない。

だいたいにして、ロンドン(でもおそらくニューヨークでも)日本のように、ワンステップごとにぎっちり詰めて乗るような乗り方をしない。

あの KEEP RIGHT の意味は、後ろから追い越す人間がいたら右側に避けろという約束の確認でしかないのである。

土台、そもそもエスカレーターを利用していて、その脇を通り抜けて駆け上がること自体がマナー違反だからだ。

急用や、必要があって急ぐときは「MAKE MY WAY PLEASE」とか後ろから声をかけて避けてもらう。

初めから急いでいる奴は階段を駆け上がればいいのだ。それでいいのである。というかそうでなければいけないのではないか。

エスカレーターが誕生してもうウン百年が経とうとしているらしい。実用化されてからはほぼ二百年が経ったという。

そのころから、エスカレーターを利用する際の基本マナーは変わってはいない。

ゆっくり、静かに、真ん中に立つことである。それがエスカレーターの正しい使い方のはずだが。

それがそうでなくなったのはおそらくは、将棋倒しで多くの人間が怪我をしたり亡くなる人が出たりという事故が相次いだからではないかと思われる。

片側によって手すりにつかまれという「その場での安全策」である。

そのさらなる安全策の上にあるのは、いうまでもないことだが全員が片側に寄らないことのはずだ。違うだろうか?

もう今では記録は抜かれたようだが、20年前くらいまで日本で一番長いエスカレーターは営団地下鉄有楽町線の永田町駅にあった。池袋サンシャインのエスカレーターもけっこう長かったという記憶があるのだが。

下から見上げるとかなり壮観だったが恐怖感も感じた。「将棋倒しの事故があったらひとたまりもないな」という恐怖である。いつのまにかその長いエスカレーターも他のエスカレーター同様の「片寄乗り」がマナーになってしまっている。当然のことなのかもしれないが。

「これでは機械はたまらないな」そう感じた。

全員が知らず知らずのうちに少しずつ機械の正しい使い方を外していって、結果その総量が自滅への道に繋がってしまっているのだ。

いつだったか、釣り舟の片側だけに釣り客が集中して、横波を受けて船が転覆するという事故があったが、エスカレータの乗客、実はこれとまったく同じようなようなことをやっているのである。

もし仮に、エスカレーターでこの片寄乗りによる大事故が起きたとしたならば、責任を取らなければならないのは誰なのだろう?

エスカレーターの管理責任者であろうか?

違うと思う。エスカレーターの片寄乗りを推奨しているメーカー、管理責任者なんてひとりもいないからだ。

こんなおかしな「マナー」を押し奨めた何者かである。

で、それは誰なんだ?

06.09.09.03:11