2006年10月11日水曜日
「青い影」 プロコル・ハルム (再録)
プロコル・ハルムの代表曲。
だいぶ前に仕事がらみでこの曲の訳を頼まれたことがあった。しかしそのときは断わってしまった。詞の内容が皆目見当がつかなかったからだ。要は自分に能力がなかっただけの話であるが。それだけではない。正直に言うが、実は自分はこの曲が大嫌いなのである。
同世代の人間にこの曲は絶大な人気がある。カラオケに行くと歌える奴がけっこう多い。
いつぞやこの曲をオルガンで弾いて聞かされたことがあったが、自分にとってそれは一種の拷問であった。
ときどきこの詞の訳をこうして訊かれるというのも仕方のないことなのかもしれないが、正直自分がその適役だとは決して思わない。
が、ほかに誰もやる奴がいないのなら仕方なくやってやるかという気持ちぐらいはある。
さて、この曲の歌詞は、ただ単に言葉だけを追っていたのでは全然ダメだ。理解不能なままだと思う。
慣用句や省略形が多いので逐語訳してゆくとどうしても意味不明な言葉の羅列になってしまう。
数年前、必要があってネットを巡回して参考になりそうな日本語訳を探してみたのだが、やはり逐語訳ばかりでまともなテキストがこれっぽちもなかった。
実は8年くらい前にイギリス人の友だちにこの曲の詞の概容を教えてもらったことがある。それとて当人が「たぶん、こういうことだと思うんだけど・・・」という前置きをしたくらいの自信のないものであった。
そもそもメンバー自身が「意味がよくわからない」とさえ言っている歌詞である。そんなものに対してああだこうだと言うことのほうがバカバカしく、無謀とも言えるわけで。
それでも最近見直してみたらなんとなくだが、前よりはわかったこともある。それは自分に古代ギリシャ・ローマ神話の無駄知識がついたことと、世間では余り知られていないこの曲の3番の歌詞の意味だけはわかったからだ。まあこれも単なる誤解なのかもしれないが。
先に必要だと思われる注釈をしておく。
FANDANGO ファンダンゴ
踊りの一種。最近のダンスブームで知られるようになったがフラメンコのような踊り。単なる「馬鹿騒ぎ」という意味ではなくもっと深い(性的な)意味があるらしい。
ONE OF SIXTEEN VESTAL VIRGINS
これを「十六人のヴェスタの巫女のひとり」と訳しているものが多いが、本当は「あるひとりの16才の(ヴェスタ神殿)巫女」である。音韻のために「SIXTEEN」を先にしたのだろうとのこと。
ヴェスタ(古代ローマの竈の女神)の神殿に使えていた若い巫女が掟を破り(処女を失うということだ)、罰を怖れて海に身投げした伝説のことを言っているらしい。
THE MILLER TOLD HIS TALE
粉引き男の身の上話。日本語でいえば調度「油を売る」と同じようなもの。延々と単調でつまらない話を続ける、ということ。
SO ~ as で as以降がその原因のように見えるがそうではなく「まるで~のような」という形容。
I'M HOME ON SHORE LEAVE
-陸から離れて(も)家にいる→shore leave→上陸許可を得て帰宅する、ではない。
このままではなんのことかわからないが、おそらくは(前後のニュアンスから)「船が港に着いたら自分は消えてしまう」というようなことを言っているのではないかと思われる。それでこの男はこの彼女をベスタ神の巫女のように(海に消えてしまうようなことに)してはならない、と思ったのだろう。
というようなことを念頭に置いての訳である。
We skipped the light fandango
turned cartwheels 'cross the floor
I was feeling kind a seasick
but the crowd called out for more
The room was humming harder
as the ceiling flew away
When we called out for another drink
the waiter brought a tray
that her face, at first just ghostly,
turned a whiter shade of pale
ファンダンゴのようなふざけた踊り方をして
ワゴンをフロアの向こうへ押しやってしまった。
船酔いにやられたのか、(それともただ酔っているだけなのか)
もっと飲めと騒ぎたてる声が
部屋中に響きわたる
天井が吹き飛びそうなくらい。
もう一杯酒を頼んだら
ウエイターがトレイを持ってきた
彼女の顔から生気が失せ、そして青ざめてゆく。
She said, 'There is no reason
and the truth is plain to see.'
But I wandered through my playing cards
and would not let her be
one of sixteen vestal virgins
who were leaving for the coast
and although my eyes were open
they might have just as well've been closed
彼女は言う
「理由はない、目にしたものだけが真実」だと
でも私は恐れている。
これはトランプのようなゲームとは違う。
(伝説の)ベスタの巫女のように
彼女が海に身を投げるようなことだけは止めなければ。
だから(目を開けて)彼女を見守っている
こうして彼女のすぐそばにいたほうがいいのだと。
And so it was that later
as the miller told his tale
that her face, at first just ghostly,
turned a whiter shade of pale
えらく時間がたってしまった
まるで粉引き男の打ち明け話みたいに無駄な時間
彼女の顔から生気が失せ、だんだんと青ざめてゆく。
She said, 'I'm home on shore leave,'
though in truth we were at sea
so I took her by the looking glass
and forced her to agree
saying, 'You must be the mermaid
who took Neptune for a ride.'
But she smiled at me so sadly
that my anger straightway died
彼女はいう
「港に着いたら、私は消える」
ここは海の上なのに
だから窓まで連れて行って納得させた。
こうも言ってやった。
「君は人魚なのかもしれない・・・海神の乗り物の。」
でも彼女は悲しげに私を見るので
私の怒り(欲望)は消えてしまった。
If music be the food of love
then laughter is its queen
and likewise if behind is in front
then dirt in truth is clean
My mouth by then like cardboard
seemed to slip straight through my head
もし音楽が愛を豊かにするものならば
楽しみながらすることが最上だろう
それと同じことだ。
隠された(欲望)を剥き出しに振舞うというのは
真実が内包している汚れた部分(欲望)を拭い去ることだ。
今の自分は、頭の中で思ったことが全てがまるで
(言葉を書いた)紙のように口から滑り出してくる
So we crash-dived straightway quickly
and attacked the ocean bed
そして私達はすぐに海の底を這いずるように
(ベッドに)飛び込む・・・。
これとて日本語としてみた場合上等な訳というわけにもゆかないが。
思い返してみると、自分はこの曲をずいぶんと子供の頃から聞いていた。
ナツメロとしてではない。ラジオでこの曲を聞いたとき、この曲の正体が
自分がオルガンで弾いていた曲だと看破してしまっていた。
しかしある時期からこの曲を自分の側から遠ざけていた。
この曲がかかるたびに暗鬱な気分になってしまった。
正直、今でもあまりこの曲を聞きたいとは思わない。
というよりもこの曲の三番の歌詞を
この曲を遠ざけるきっかけになった人物に向けて
その意味を問い正したいという気分になることがあるのだ。
今となっては薄れた記憶ではあるが。
※リクエストにより再掲
初出 メールマガジン『'70 ROCKS 』(たぶん97年頃?)
その後HP『THE DAYS IN THE LIFE』99/10に抜粋して「青い言葉の陰」として掲載
その後ブログ「人生の一日」02.03「プロコルハルムの『青い影』」と改題して掲載
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